グレードレース

競輪放浪記【第19回】(麻雀プロ 滝沢和典)(アオケイ紙面掲載コラム)

2024/10/17

 平日開催の立川競輪場は、客付きの悪いパチンコ屋の様に閑散としていました。活気あふれるビッグレース特有の喧騒も悪くはありませんが、これはこれで風情があっていいものです。

 競輪の知識がまだまだ浅く、ひよっこである私にとっては先輩方の声援やヤジを聞くのも現地観戦の醍醐味の一つです。
 人気していた選手の捲りが不発、別線の逃げが決まり、その日も定番のセリフが聞こえてきました。
「◯◯金返せバカヤロー!」
観客が少ない分場内に響き渡ります。それを聞けただけでもテンションが上がります。むかし勝った負けたのみで一喜一憂していた頃はわからなかった趣です。そして最初は同じ様に聞こえるヤジでも、愛があるヤジかどうかわかってくる瞬間があります。
 バカヤローと言ったそのお父様の年齢も職業も何もかも推測の域を出ないまま、勝手に心の中で本日の先生と呼びつつ、その方の近くで観戦することにしました。

 雨がぱらついてきた10Rは人気していた関東の先行を、外田心斗選手と小川丈太選手の四国両名が外から捲りきるという展開で三連単は約2万の配当となりました。
ゴール後に、外田選手と小川選手のどちらが発した言葉かはわかりませんでしたが「2人で決まったね」「おう!」そのやり取りを聞いた本日の先生は華奢な体格からは想像もつかない様なびっくりするくらい大きな声で「良くやった!お疲れ様!」と労いの言葉をかけていました。良い配当の車券を取ったなあ、さすがはベテランと思っていると、先生は「あー当たらねえなあ」と呟いて11Rを買いに券売機に向かいました。(当たってないんかい!)でもその後ろ姿は格好良かった。

 良いレースは大きな声で称賛して、がっかりしたら小さな声でボヤく。一般的な上品とはかけ離れているかもしれませんが私にとって「先生」の佇まいは、スマートで洗練された見事なものに感じられました。

 先生は最終的に何かしらの歌を口ずさみながら帰っていったのですが、それを聞き取れなかったのが心残りです。今日はありがとうございましたと感謝して競輪場をあとにしました。

〈左:滝沢和典〉

滝沢 和典 プロフィール

競技麻雀のプロ雀士。

日本プロ麻雀連盟所属。

MリーグではKONAMI麻雀格闘倶楽部に所属。

愛称はタッキー。

キャッチフレーズは「越後の奇跡」、「麻雀バガボンド」

生年月日: 1979年12月6日 (年齢 44歳)

血液型:B型

出生地: 新潟県 長岡市

 

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