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「無事に選手人生を終えたい気持ちだけです」
北の名バイプレーヤー、伊藤司。
老獪な先行と意外性のある捲りを武器に、本線に一泡吹かせる姿はまさに穴党の味方。
近年はチャレンジ戦で、新人相手に「競輪」を教える古き良き自力型として存在感を示してきた。
ただ、25年後期から成績が低迷。以前は持ち場としていた負け戦で苦戦するようになると、そのままズルズルと競走得点は下がり続け、3期目の今期に入っても浮上の気配はなく、代謝回避は絶望的な状況だ。
事実、前検日、検車場に姿を見せた伊藤の姿には諦めムードが漂っていた。
「無事に選手人生を終えたい気持ちだけです。負け戦で勝てなくなって誤魔化しが効かなくなりましたね。本当は500勝を目標に頑張りたかったけど、もう気持ちを保つのが難しくて。前と同じ強度では練習出来なくなってしまった」と包み隠さず胸の奥底から言葉を並べて行く。
「もう任せられても厳しいし、一人で走りたいんですよ」
そう語る伊藤だが、なかなか周りがそうさせてくれない。
「前回最終日も俺は嫌だって言ったのに、内海(雅夫)が『同期だから』って言うから渋々ラインを組んだ(苦笑)。結果的には後ろがワンツーだったから、人の役には立てたのかな」
「まあ、腐れ縁だからねぇ…」
頼まれたら断れない性格。そんな伊藤を数多くの追込屋が頼ってきた。そこに地区の壁は存在しない。
今節2日目の1レース一般戦。
山口の阿部龍也を先頭に中四国が本線を形成。残るは伊藤と関東の追込屋2人。伊藤が希望通り単騎を選べば、ライン1つの競走になるレースだ。
だが、伊藤の番手には埼玉の天沼雅貴が付いた。
「伊藤さんには以前、西武園で1着を獲らせてもらったことがあるんですよ」
6年前のチャレンジの負け戦。しかし、天沼の中では伊藤との縁として確かに息づいていた。
結果は阿部が突っ張って中四国3人でのライン決着。
ただ、初日のレース後に『捲りに付いて行く気持ちにもなれない』と言っていた男が、後ろを連れて鐘で仕掛けた。
レースを終え、検車場に戻ってきた天沼は「伊藤さんの気持ちが嬉しかった」と答えたあと、「せっかく脚を削ってくれたので、自分が捲れたら良かったんですが」と悔しがっていた。「あれは仕掛けた内に入らないですよ」と伊藤自身は自嘲気味に笑うが、ラインとして戦ったのは紛れもない事実だ。
伊藤の言葉は全て本心だろう。
「最近は人に迷惑をかけては謝ってばかりで辛い。でも、こんな俺でも任せてくれるのは嬉しいですよ」
尽きても尽きても、任されれば気力が湧くのが自力選手だ。