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「自分も8年前に落車事故で脊髄を損傷したんです。」
「競輪選手」という括りの中に二千人超の人間がいる。当然、その人となりは千差万別だ。
樋口奨平という選手は普段、そこまで口数が多い方ではない。時折、冗談を挟みつつも、自身については淡々と端的に語る。
今節の奈良が復帰戦となる樋口。
『腰痛と背中の痛み、親知らずを抜く手術』と色々な要因が重なり、前回から1カ月ほど空いた。
「練習した感じはイマイチでした」と、淡々と自身の現況を伝えてくれる姿は普段と変わらない。
ただ、この日は思う所があったようだ。
「諸橋さんの事があったでしょう」
「特に接点があった訳ではないんです。何度か検車場でお見掛けしたくらいで…」と切り出しつつ、その胸の奥を明かしてくれた。
「自分も8年前に落車事故で脊髄を損傷したんです。事故直後、一時は首から下が動かなくなる経験もしました。リハビリを開始した当初は、両手に何か触れただけでハリが刺さったような激痛が走り、事故から8年経った今でも、その時の後遺症が出てくる事があります。だから、諸橋さんの気持ちも少しは分かるし、おこがましいけど1年間の休養を経て、復帰する事が出来た自分の例を見て、多少なりとも前向きな気持ちになってもらえればと思っていたのですが…」
噛みしめる様に思いを語ったのちに、樋口は視線を傍らの自転車に向けた。
「今回は諸橋さんが昔使っていたフレームを持ってきたんです。自分に合うモノを探していた時に偶然見つけて。その時は分からなかったのですが、のちに引退した中山善仁さんが教えてくれたんですよ。『富山の奴がにお前のフレームを使ってるよ』とご本人にも伝えてくれていたみたいで」
「3日間無事に走り切ることを目標に頑張ります」と語った樋口の表情に、確かな意志の強さを感じた。
この場所をこの車で、走り切る事で偲ぶ。