特別インタビュー

第1回オールガールズクラシックG1開催記念 岩原紗也香さん特別インタビュー

2023/09/26

第1回オールガールズクラシックで実況を担当する「岩原紗也香さん」にインタビュー。徳島初のガールズ選手となり、引退後は実況アナウンサーに転身。岩原さんのバックグラウンドや実況への思い、ガールズケイリンの魅力について伺いました。

 

  『松戸競輪場』で一人の女性の人生が大きく変わった。

 

 2018年7月に松戸競輪場で開催されたサマーナイトフェスティバル。旅打ちをするほど競輪が好きだったという岩原紗也香は現地へと足を運んだ。そこで初めて『ガールズケイリン』と出会う。

「小松島ではガールズの開催もやっていなかったし、女の人も走るんや~。それだったら私も走りたい。お金を賭けるよりも、走った方が稼げるんじゃ…」と考えた岩原は、競輪選手養成所の受験を決断。

中学時代、剣道日本一の実績を引っ提げて、適性試験を見事に合格。一人の女性ファンが金網の向こう側へ、競輪選手として第二の競輪人生がスタートした――。

 

【競輪ファンから選手、そして実況アナウンサーへ】

 

――実際に選手になって、一番の苦労は何でしたか?

 

岩原:「ギャップ」ですね、イメージと現実の。養成所の訓練でも勝てるような選手ではなかったんですけど、男子選手のみなさんは協力的に指導をしてくださった。

徳島出身のガールズ選手1という期待もあってか、何かと手伝ってくださり、練習に付き合ってくれましたが、自分の中で気持ちのバランスが取れず苦しくて…。そこで初めて「厳しい世界なんやな」と感じました。

 

――そういった選手時代の苦しさは、現在の『糧』となっているのでは?

 

岩原:何かを残せれば良かったんですけどね。みなさんに期待していただいて、手伝っていただいたのに競輪界を盛り上げることができなかった。車券に貢献できなかったですし。

選手出身の実況アナウンサーというのは輪界初だということも1つの魅力だったので、いざ挑戦してみて「頑張って続けなきゃアカンな。選手時代にできなかった分まで競輪界を盛り上げられるように頑張ろう」という思いはありますね。

 

――選手引退後、実況アナウンサーとなったきっかけを教えてください。

 

岩原:競輪はずっと好きなので、せっかく選手になれて、もう一度ファンに戻るっていうのもなぁ…と。「もうちょっと中の世界におりたいな」という気持ちがあった時に、前任の茂村(もむら)華奈さんから声をかけていただいたんです。

 

選手時代にお話したのは一度だけ、私があっ旋された高松競輪場に茂村さんがいらしていた。その時に「実況アナウンサーの方だよ」と紹介されるまで茂村さんのお顔を知らず、初めてご挨拶をさせていただいた。それが夏ぐらい。

その後、「実況してみないか」と言われた時も、たまたま競輪場でしたね。茂村さんは私の引退が決まっていることを分かっていて「実況やれへん?」って。

 

――出会って二度目でスカウトですか!

 

岩原:後々、聞いた話によると茂村さんは根回しをしていたらしいです。茂村さんは、私の競輪の師匠・山本宏明(83期)さんに「紗也香を実況アナウンサーにスカウトしてもいい?」と聞いていたみたい。

山本さん、何て答えたと思います? 「あいつは走るよりも口が達者だから、その方が向いていると思う」って(笑い)。私の知らないところで『師匠同士』で話がついていたんです。

 

――まさかまさかですね(笑い)。スカウトされた時の岩原さんの心境は?

 

岩原:実況のことも何も分からないのに「あ、やります!」と即答(笑い)。

よくよく考えてみたら、実況って競輪選手と違って自分のタイミングで休めないじゃないですか。「大丈夫かな…」とも思いましたが、「分からない世界だけどやってみたい」という気持ちの方が勝っていた。

それに茂村さん自身が実況を引退したいという思いを聞いていたし、公営競技の選手から実況アナウンサーに転身した人は今まででいないし、全国でただ1人の女性競輪実況アナウンサーになれるっていうのは魅力的に感じました。

 

――新たな挑戦を決めて、実況アナウンサーとしての訓練が始まりました。茂村さんからの教えの中で印象に残っていることは何でしょうか?

 

岩原:約一年間、みっちりご指導いただいたのですが、茂村さんからは「同じレースは二度とないから。実況ではなく、選手がメインで実況はBGMだ」と。

曲で言ったら、AメロもBメロもあればサビの部分もあるじゃないですか。

サビの部分が選手が動いたり、ゴール前の場面であったりすると思うんですけど、「それに合わせて自分たちは声を付けているだけだから。それを間違えないで」とよく言われていましたね。

 

――実況に込める思いなどありますか?

 

岩原:選手の方って毎日練習して、色々な制限をかけて命をかけてレースに臨まれている。1日に12レースあっても同じレースはないし、同じメンバーでは走らないので、11つのレースを全力で実況しているつもりです。

選手の方々が全力で走っているのだから、その姿勢を私も全力で伝えようと。あとは、分かりやすく伝えることを意識していて、茂村さんから「見たままを伝えなさい」ともよく言われていました。

 

――実況デビューを飾ってから11月で一年を迎えますね。

 

岩原:自分の実況が成長しているか、怪しい…(苦笑い)。茂村さんも引退されて正解が分からないので、手探りの状態で毎回反省をすることの方が多いですね。

「この表現の方が絶対に伝わるし、分かりやすかったな」とか「同じような伝え方ばっかりだな。もうちょっと言葉の引き出しを多く作らなきゃアカンな」とか。

そんな中でも、私を起用してくださっている競輪界や小松島競輪場の方々など、全員に感謝しています。選手会の方々も動いてくださって、今こうして実況ができている。本当に感謝しています。

 

――今後の目標や夢を教えてください。

 

岩原:実況アナウンサーになる時の目標がガールズケイリンを実況することでした。小松島ではガールズの開催がないですしね。

そうしたら、なんと今回、オールガールズクラシックを実況というお話いただいて。しかもG1開催という大役。何だか、ものすごいことに…。

なので、まずはオールガールズクラシックの実況を「ちゃんと成功させなければいけない!」というのが今の目標です。

今のところ不安の方が大きいですが、「失敗もできない、やり直しも効かない、替わりもいない!」と思って、やるしかないですね!

全てのアナウンサーがG1のレースを担当させてもらえるわけではないですし、光栄です。楽しみな気持ちもあります!

 

――男子選手のレースがなく、ガールズオンリーの開催。私たち記者も未知の世界と言いますか…。

 

岩原:難しいところですよね。G1戦のメインの実況だけならまだしも、3つのトーナメントがありますから。そのあたりも踏まえ、変化を少しは付けるために工夫が必要だなと考えています。

 

――長いスパンでの目標はありますか?

 

岩原:ずっと長いこと実況ができれば良いなと。徳島の選手のみなさんには本当にお世話になっている。

すごく先、ホンマにずっと先であってほしいんですけど、みなさんが60歳ぐらいになったときの引退レースの実況は、絶対に私がしたいなって。だから、お互いに息長く、頑張っていければと思っています。

 

――個人的には太田竜馬さんの引退レース、岩原さんの実況で見届けたいですね。

 

岩原:兄弟子なんです。師匠の山本(宏明)さんはもちろんですが、たくさん練習やセッティングも見てもらいましたし、ヘルメットも買っていただいた。

でも…、何ひとつ恩返しができていないので、何十年後、先であればあるほど良いんですけど、夢は引退レースの実況ですね。その時が来るまで、私も実況として起用し続けていただけるように頑張りたいです。

 

あとは…、休みがないぐらい仕事してみたい。実況もできて予想もできて、おしゃべりもできてってなったら1つの強味になる何でもできる人になりたい。メインは実況で、休みなく働きたいです!目標、お金稼ぐ!(笑い)

 

――選手を経験し、そして実況アナウンサーとして競輪を見てきた岩原さんが感じる『競輪やガールズケイリンの魅力』は何でしょうか?

 

岩原:ガールズは全員が単騎で、男子と違ってラインがない分、自分ができることって限られていて。強い選手は自分で動けるけど、人の力を借りて最後にタテ脚だけで勝負するっていう選手もたくさんいる。

自分のできることは何かということを理解して、皆さん練習していると思うんですよね。そういった選手の持ち味や特徴を見極めるのが、私はすごく楽しいです。

 

ガールズのG1は今年から始まったけど、G13つのみ。グランプリの権利を獲得するには賞金が全てなところもある。

だからこそ、怪我や体調不良だとしても、賞金ランキングでグランプリ出場圏内だと、先を考えたら「この1走が大事」と思って欠場しにくい。そういうところで垣間見える選手の必死さも好きですね。

 

あとは綺麗な人が多い!サングラスをして、唇しか見えないのにメイクをして、グローブを付けて手は見えないけど、ネイルをしていたり。

みんな太ももが入らない(笑い)とか言いますけど、自分の気持ちを高めるために好きな服を着て、好きなブランドのバッグを買って、テンションを上げてレースに挑む。そういうところもガールズケイリンの1つの魅力だと思います。

 

競輪選手って色々な経歴の方がいるじゃないですか。全く違う経歴の持ち主が集まって、年齢もバラバラな200人ちかい女子選手がしのぎを削っているって、他にはないスポーツですよね。

 

――確かに「こんなスポーツ、他にはないだろう?」というCMも放送されていますよね。

 

岩原:人生の中で、自転車に乗って競走することってそんなにないじゃないですか(笑い)。

自分の力だけでペダルを漕ぐ、私が思う競輪の好きなところ。何の機械にも頼らず、自分の力と戦略だけで戦うっていうのが一番の魅力だと思っています。

 

【オールガールズクラシックの展望】 ※賞金ランキングは9月29日現在

 

――ガールズ初のG1・パールカップを優勝、オールスターではドリームレースを優勝と勢いに乗る児玉碧衣選手について、そしてナショナルチーム組についてどう見ていますか?

 

岩原:児玉碧衣選手はパールカップを優勝してグランプリの権利を取ったけど、そこで満足するような選手ではないと思うんですよ。

「輪界を引っ張っていくのは、やっぱり私」だという自負があると思うし、「今年から始まったG1のタイトル、全部獲ります!」ぐらいの気持ちでいるんじゃないかな、と。

 

対して、世界組は国内のレースを走る機会は限られている。

一発にかけるというか「世界で活躍するには日本のトップクラスに君臨しなきゃダメでしょう」っていう自負があると思うんですよ、特にサトミナ(佐藤水菜)選手とか。

アジア大会で良い結果を残して、良いイメージで帰ってきて乗りに乗っている状態だと怖いですよね。

 

――岩原さんが注目されている選手はいますか?

 

岩原:3つあるG1を優勝すればグランプリ出場は確実ですが、賞金ランキング上位の選手にも注目が集まりますよね。その中でも、現在2位の久米詩選手。

久米選手は自ら頼み込んでナショナルチームの練習に参加していて、それがプラスに働いてるように感じます。

レーススタイルにも変化を感じていて、長い距離を踏めるしスピードもあるのでマルチに動けている

パールカップの決勝2着は、アクシデント(小林莉子が落車)もあったかもしれないけど、児玉選手に千切られて先着を許したので、悔しかったと思います。

 

絶好調の坂口楓華選手にも注目したいですね。直前の玉野の追加を受けたのは、ランキング現在3位の坂口選手にとっては、少しでも賞金を上積みしておきたいところ。

本来なら大きなレースの前は調整に入る選手もいますが、坂口選手は1つでも走ってキッカケを掴んだり、走って調整するタイプなのかなと。

 

――賞金ランキングでは、同期の尾方真生選手が5位と良い位置にいますね。

 

尾方選手は毎年、賞金争いをギッリギリ突破している(笑い)。グランプリでは先手先手、前々って感じでしたが、自分のやりたいことがハッキリしているなとは思う。

今年に入ってからは捲りのスピードはもちろんあるけど、大きいレースになっても自分の行けるタイミングから行くようなレースが増えたように感じますね。

 

――若い選手も多くあっ旋されていますが、気になる存在はいますか?

 

岩原:徳島から唯一、出場する藤原春陽選手ですね。牛柄のデザインのフレームもそうだし、レースにも『自分』が出ていますよね、強気な姿勢が。

でも、そういう姿勢や自分を貫くこと、怖がらないことは、この世界で絶対に必要だと思うので。今後も注目していきたいです。