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「原君の番手にジカで行きます」
初日10レース、原大智-飯野祐太の北日本勢と塩崎隼秀-山本直の中四国勢、谷田泰平-宝満大作の岐阜勢の三分戦を前に、熟考を重ねていた伊藤慶太郎が出した結論はこうだった。
伊藤にとっても難しい選択だったかもしれない。
ただ、それ以上の反応を示したのは、初手から自分の番手が競りとなった原大智だ。
「自在にやっているけど、先行はむしろやりたい。先行しても強い姿を見せつけて、先行させてもヤバいんだなと思わせたいですね」と直前に意気揚々と話していたが、伊藤の決断を知ってびっくり仰天。
「僕なら行かないけど、勝負に来るなら来るで頑張るだけ」と淡々と話す番手の飯野とは対照的に「徹底先行の番手で勝負するなら分かるけど、今の自分はそういう選手ではないし、どちらかといえば何をする分からない選手なのに…」と困惑を隠せない。
日付が変わって、迎えた初日10レース。
号砲を合図に飛び出した1番車の飯野がSを取り、前受けは北日本勢。「前が取れれば全部突っ張る作戦でした」と後に飯野は振り返る。
「鐘で別線が仕掛けてくるな」と前で身構えていた原だが、流れも向く。
「フタを開けたら最高の展開でしたね」
後ろ攻めになった谷田率いる岐阜勢が早々に中団に追い上げると、自力対抗の塩崎も引かずに内で被る隊列となったのだ。
別線にも、番手の競りにも目立った動きがないまま、レースは進んでいくが、『後ろの事を考えて鐘過ぎ2センター』で踏み込んだ原。番手の位置は踏み出し勝負を制した先輩飯野が守り抜き、直線は盤石の北日本ワンツー体制に。押し切りを謀る原だが、最後は飯野がゴール前計ったかの様に捉えて、格上の力を見せつけた。
前検日に「現状に満足せず、GⅠで自力を出せる選手になりたい」と語っていた原にとって、いきなりやってきた自身の先行力に注目が集まる番組。
「これで粘れなかったらヤバいでしょう。逃がしても大丈夫な選手という認識が付いてしまうので、ずっと変に緊張していました」
「いま、凄くホッとしていますよ…」
レース後、検車場で安どの笑みを浮かべた原だったが、「感じは悪くないが、飯野さんはGⅠで自力で戦ってきた選手だし、余裕で差されましたね」と悔しさをにじませる場面も。
貫禄を示した飯野は「番手を取り切ってからは余裕もあったのでしっかりワンツー出来るように」と自身の走りを冷静に振り返りつつ、「原君は前に付いた時よりも強くなっています」と優しい眼差しを後輩に向けていた。
競輪は点ではなく、線の勝負。
それはライン戦という意味合いと共に、一つ一つのレースが次に繋がるという事でもある。
レースの中で、いかに自分の走りを「みせられる」か。
そのレースを走る時にはもう、次の戦いは始まっている。
時として、「みせる」事は、勝つ事より難しい。
初めてのジカ競りが、ホロ苦い思い出になった伊藤にとってもそれは同じだ。
「練習とレースは全く別物だと感じました。一つ一つが勉強だし、この経験を無駄にしない様に」
自分の走りをバンクに積み重ねて、大きくなる。